紅き葉は舞い落ちれど
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多摩のくれは

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 どのMMOでもまったり過ごすことが信条。
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 自他共に認める天然なので、稀に意味不明な言動を取る恐れアリ。

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イメンマハの水面に月は映える 14曲目

 本当は陽太は一見さんで考えたキャラでして、ティルコネイルでの話が終わったらお役御免と考えていたのですが、路線変更に伴いレギュラー化することになりました。気が変わって私がいきなり殺したりしない限りは^^;、多分一緒にいることになるのではないかなあと。多分です、多分。確定ではありませんw。
 で、この彼の設定を色々と考えているわけなんですけど、ちょっと前にSNSの方で使おうと思っていたネタを彼に割り振る事にしました。かなり長いスパンをかけてその辺りのネタを展開してみようかなあと考えております。



 翌日、私と陽太はファーガスさんの店に来ていた。今まで使っていたショートソードが消滅してしまった為、新しい武器を調達しなければならない。
 陽太は少しグレードアップを考えてショートソードよりも大きめの剣を色々と検討しているようだが、私は目の前にあった茶色いそれを取り出して会計をしようとした。それを見た陽太が驚きの声を上げる。
 「え、水月、木刀なの?もっといい剣を買ってもいいんじゃ…。」
 しかし私は近接よりも魔法重視で戦うことにした身だ。前線で体を張るよりも、他人をサポートするような、言うなれば縁の下の力持ちのようになりたいと思っていた。だから武器はそれほど拘るつもりはなかった。
 私が彼の問いには答えずにただ微笑んで見せると、彼は不思議そうな顔をして武器の選定に戻った。最終的に、彼はブロードソードを選んだようだった。
 「それで、水月はこれからどうするの?一応初心者のうちは暫く一緒に行動っていう約束だったけど。もう二人とも一人前のお墨付きは貰った訳だしさ、水月だってやりたい事もあるだろうし…。」
 ファーガスさんのお店を出ると陽太は私にそう聞いてきた。私は思案した。別に急いで何かをしなければいけないような状況ではない。このまま彼と一緒に行動していても差し支えないと思った。
 「私は…今のところ特にするべきこともないから、このまま一緒で…。」
 「そう?そしたらとりあえず、ダンバートンに行こうか。」
 新しい得物を腰に差した私達は、ダンバートンへと向かう南の街道に向かって歩き始めた。もう私の肩に腰掛ける小さな女の子の姿はない。でも私の隣には、行動を共にしてくれる男の子が一人いる。それがとても心強かった。

 トゥガルドアイルを通り抜け、更に街道を下ってくると、開けた広い場所へと出る。遠くの方に、城壁のようなものが見えてきた。どうやらあれが目指す町、ダンバートンのようだった。近付くにつれ、門を出入りする人の影が見えてくる。ティルコネイルとはまた違う賑やかさが伝わってくるようだった。
 私達は並んだまま城門をくぐって町に入ろうとした。すると、突然門の脇から馬が飛び出してきたかと思うと、ものすごい勢いで私達に迫ってきた。
 反射的に身を翻した陽太は私を突き飛ばし、その反動を利用して自分は反対側に身を投げ出した。がががっという蹄の響きと共に馬とその騎手は走り去っていった。
 「いた…。」
 私が身を起こすと、陽太が慌てた様子で私の方に駆け寄ってきた。
 「大丈夫?ごめんね、乱暴な事しちゃって。」
 私が首を横に振って問題ないことを伝えると、彼は安心したように手を差し出してきた。私はその手を掴んで立ち上がる。
 「まったく、ひどいよなあ。あんなに猛スピードで飛び出してきて人を轢いたらどうするつもりだったんだろ。」
 私がそれに応じてうんうんと頷くと、彼は少し驚いたような表情を見せた。
 「へえ、水月でもやっぱりああいうのって許せない性質(たち)なんだ。普通はそうだよねえ。」
 そこまで言うと、なぜか彼は暫く黙り込んでしまった。目を閉じて、心なしか深呼吸をしているように見える。やがてふっと目を開いた彼の表情は驚くほど静かで、先程までの憮然とした表情が嘘のように消え去っている。
 「でもね、そこで相手を恨んじゃいけないと思うんだ、僕は。急いでいたのはきっと訳があるんだよ。ひょっとしたら、大事な人が事故に遭ったのかもしれない。危篤状態なのかもしれない。もし僕がそういう状況だったら、同じように脇目も振らずに急いだかもしれない。」
 ゆっくりと、落ち着いた様子で諭すように彼はそう言った。私に対して発言しているのだとは思うが、しかしまるで自分に言い聞かせているようにも思える。まだ知り合って間もないが、彼はひょっとすると相当な人格者なのかもしれない。
 「だから、相手を呪ったりしちゃいけないんだ。絶対…。」
 それから彼はいつものような明るい笑顔を見せた。
 「さ、行こうか。ダンバートンに到着したよ。」
 彼に手招きされるまま、私は一緒に町の中へと足を踏み入れた。途端に私達は雑踏と賑やかさに巻き込まれた。
 ここから私達の冒険が始まろうとしていた。
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  1. 2009/08/04(火) 01:54:24|
  2. イメンマハの水面に月は映える
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イメンマハの水面に月は映える 13曲目

 途中で路線変更をしたことにより、この話を書くことになりました。これから主人公が色んな人と出会って色んな話を展開していく事への最初の一歩になれば。そんな思いを込めてあります。
 そういえば今の初心者クエって、累積が溜まったら突然このシーンになるそうなんですけど。以前だと少し前からアイリがなにやら思わせぶりなセリフを言うようになるんですけど、そういうのは今はないんですかねえ。だとしたらちょっと寂しいかも。



 今日はラサ先生からの最後の講義を受けていた。今まで教えてもらった事の総括と、魔法をどのように生かしていくのか、その心構えのようなものが主だった。私は魔法を習うまでは、魔法というのはただ念じれば何でもできる万能器具のように考えていた。しかし実際には、森羅万象を支配する理を理解し、それを扱うための理論を学び、更にはいついかなる時でもそれを操作できる冷静さを持たなければならなかった。その全てを会得するには私はまだまだ修行不足ではあるが、いずれはそうなりたいと思っているし、そうなるべきなのだろう。魔法士としての道を歩むのであれば。いや魔法士としてだけではなく、冒険者として、なのかもしれない。
 最後にラサ先生はこう締めくくった。
 「これから冒険者として生きていくのなら、今まで教えた3つのボルト魔法とヒーリングの魔法は必需になる筈よ。特にボルト魔法はね。でもこれらボルト魔法はあくまでも初級の魔法。これらを使いこなした上で更に上を目指したいのなら、中級魔法を学んでみるといいわ。」
 中級魔法という言葉を記憶の引き出しに入れておいて、私は校舎の外に出てきた。そこにはレイナルド先生に訓辞を受けている陽太の姿があった。
 「おお、水月か。今日で卒業だそうだな。彼も今日で一通り私からの訓練が終わったところだ。」
 陽太は振り返って私を迎えた。私は彼の横に立ち、一緒になってレイナルド先生の話に耳を傾ける。
 「陽太ももう十分独り立ちできるだろう。私から教えられるのはここまでだ。あとは実際に実戦で己の修練に励むといい。…卒業、おめでとう。さあ、二人ともダンカン村長の所へ行きなさい。」
 私と陽太は肩を並べて学校の門をくぐり出た。貯水池を横目に見ながら、上に続く山道を登っていく。銀行の脇で鶏の卵を取っている冒険者がいた。まだエリンに着たばかりなのだろうか、最初に出会った頃の陽太のような雰囲気を醸し出していた。

 大きな木の下を通り抜けて石段を登っていくと、そこにダンカン村長が杖に体重をかけながら佇んでいた。私たちを待っている様子だった。
 「おお、来たな二人とも。まあ楽にして聞いてくれ。」
 楽にしろと言われてもまさかこの場で座るわけにもいかず、私は畏まったままダンカン村長の話を聞き続けた。
 「レイナルド先生とラサ先生から話は聞いた。二人ともよくそこまで成長したものだな。これからは一人前の戦士として、このエリンで生きていく事になるだろう。…だが、別に勇者たらんとする必要はない。自らの行きたい所へ歩いていき、自らの思うように行動するといい。…アイリ。」
 ダンカン村長がアイリの名を呼ぶと、私と陽太のショートソードから2人のアイリが現れた。心なしか、その表情が寂しげに見える。
 「アイリ…?」
 私はなんだかいつもと様子が違うアイリに少なからず動揺した。
 「ご主人様…。このティルコネイルにやってくる直前に精霊の森で会ったティンさんのこと、覚えています?」
 ティンというのは、私が初めてエリンにやって来たとき、ティルコネイルに入る直前の森で出会った少年の名前だ。彼は私にちょっとしたアドバイスと、アイリが宿ったショートソードを手渡してくれたのだった。その時、確か彼はこう言っていた。
 「いつショートソードを返せばいいのかって?心配しなくても、時が来ればそいつは勝手にあんたから離れていくよ。」
 私は今まさにこの瞬間、その「時」が来たのだということを悟った。あまりにも突然の事だった。こんなに早くその時が来るなんて。
 「ご主人様はもう立派に一人の戦士になりました。私がお手伝いできるのはここまでです。これからはご主人様が自分の力で道を切り開いていくんです。」
 アイリの言葉を聞くにつれ、彼女とはこれでお別れなのだという実感が私を支配していく。もっと沢山お喋りすればよかった。もっとリュートの演奏を聴かせてあげればよかった。今になってそんな後悔があとからあとから湧いてくる。
 「短い間でしたけど、楽しかったです。ご主人様とお会いする事ができて、嬉しかったです。……ねえ、ご主人様。」
 「…え…なに?」
 アイリは私を呼ぶと、にっこりと微笑んでみせた。その紺碧の瞳には使命を終えた達成感のようなものが映って見える。
 「私…ご主人様の演奏が大好きでした。これから冒険者を続けても、どんなにすごい大魔法士になっても、できれば演奏を続けていて欲しいです。それが、私からの最後のお願いです。」
 「……うん。約束するよ、アイリ。演奏はずっと続けるから…。」
 私の言葉を聞いて安心したような表情になった彼女は、少し飛び上がって宙に浮いた。
 陽太のアイリも彼と話が終わったようで飛び上がった。二人のアイリが私達の頭上に並ぶ。その体が少しずつ光に包まれていく。
 「私達はもうここを去ります。けどご主人様、私がいなくてももう大丈夫ですよね?ご主人様はもう一人じゃないですよね?新しい仲間と一緒に歩き出し…。」
 不意に光が消えた。二人のアイリはその姿を消し、後には何も残っていなかった。気が付けば、私達が手にしていた筈のショートソードもなくなっていた。私と陽太は、暫くその空間をじっと見つめていた。
 背後からダンカン村長が歩み寄り、私達と並ぶように立ち止まった。
 「このティルコネイルは幾多の勇者達を輩出してきた場所だ。もし何か行き詰ったりした時には、いつでも戻ってくるといい。ここはお前達の生まれ故郷なのだからな。」
 私はこれからの歩むべき道を模索していた。きっとそれは、私の隣に立っている陽太も同じなのだろう。
 まずは自分の足で歩き出さないと。その決意を思い出した私は、明日早速ティルコネイルを出発する事にした。
  1. 2009/07/31(金) 02:18:41|
  2. イメンマハの水面に月は映える
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イメンマハの水面に月は映える 12曲目

 初心者クエをなぞって話を書こうとすると、SNSの方で書いている書き物と話がダブってしまうんですよね。なので、こちらではあまり初心者クエには触れません。ちょっと違う切り口からティルコネイルの生活を描いてみたいとは思っていますが、あんまり長い事ここに滞在していてもネタがなくなってしまうので、近いうちにティルコを出るかもしれません。
 相変わらずの破壊神っぷりをみせてくれるファーガスさんですが、今回はちょっと「鍛冶屋」っぽい雰囲気を出してみました。鎌とか採集ナイフとか、どうでもいいものはいつも完璧に仕事してくれるんですけどねえ…w。



 全てのボルト魔法を教えてもらって暫く経ったある日、アイリがいつものように私の肩に腰掛けながら話しかけてきた。
 「ねえご主人様。」
 「ん?なに?」
 「私のショートソード、少し刃こぼれしてきているみたいなんです。修理してもらえませんか?」
 アイリはそう言うと、私が腰に挿しているショートソードを指差した。私はそれを引き抜いて眺めてみた。パララの光が刀身に反射して眩しく光る。一見したところ、特に刃がこぼれているようには見えなかったが、細かい傷や歪みなどが発生しているのかもしれない。武器の精霊が言うのだからおそらく間違いないのだろう。
 「武器の修理というと…。」
 「ファーガスさんですね。」
 今まで一度も立ち寄った事はなかったが、アデリア川のほとりに鍛冶屋があるのは知っていた。ティルコネイルという辺境の村だからなのか、訪れる客を見ることはあまりない。以前学校のレイナルド先生が、ファーガスさんの腕は見事だというような事を言っていたので、きっと新品のようにしてくれる事だろう。

 髭をたくわえた鍛冶師のファーガスさんは、店に設置されている炉で作業をしている。カン、カンという金属を叩く音が一定のリズムを刻んでいる。私は彼に近づいていった。
 ど。
 なにやら粘土を叩いたような鈍い音がしたかと思うと、彼は無言で飛び上がって手を押さえ始めた。その目には大粒の涙が浮かんでいる。やがて私がいることに気が付くと、彼は何事もなかったかのように背筋を伸ばし、大きく咳払いした。
 「おや、初めて見る顔だな。何か御用かね?」
 私に見えないように手を後ろに回してまださすっている。私は一抹の不安を覚えた。
 「あの…これを修理して欲しいんですけど…。」
 私が腰に挿していたショートソードを抜いてファーガスさんに手渡すと、彼はそれをしげしげと眺めた。
 「ふむ…多少は使い込まれているようだが、それほど損傷しているわけでもなさそうだ。これなら修理作業はすぐにでも終わるだろう。お代は…。」
 そこまで言うと彼はなぜか言葉を切って私の顔を覗き込んできた。私はたじろいで1、2歩後ずさる。暫く私の顔を見ていた彼は、何かを思い出したかのように頷いた。
 「おお、あんたか、ラサ先生のところで熱心に魔法を習っている生徒は。まだまとまった収入もないだろうに、よく頑張っているな。武器の修理費を捻出するのも大変だろう。…そうだな。」
 ファーガスさんが言っているのは、授業料の事だ。魔法の授業料は近接戦闘のそれに比べて遥かに高い。日々アルバイトをこなしながらようやく溜まったお金で授業を受けていたので、私の財布はいつも空っぽだった。
 ファーガスさんは店の奥に引っ込むと、鎧を持ち出してきた。上半身を覆うタイプのものだ。
 「このリングメイルを学校のレイナルド先生に届けてくれんか。そうしたら修理費をタダにしてやるぞ。どうだ?」
 私はそのお使いを喜んで引き受けた。リングメイルを受け取ると、それを大事に抱えて学校へと向かった。

 学校に到着すると、レイナルド先生は校庭にいた。いつものように陽太の戦闘訓練をしているのかと思いきや、一人の男性と会話をしていた。私はその男性に見覚えがあった。いつかダンバートン郊外で私がダイアウルフに襲われていた時、助けてくれた人だった。あの時腰に挿していた雷の形をした棒のようなものを今も所持している。
 私は会話のリズムを崩さないようにと、恐る恐る話しかけた。
 「あの…こんにちは…。」
 不意に声をかけられたからか、男性は驚いたような顔でこちらを振り向いた。
 「お?ああ、こんちは。」
 「え、と…先日はありがとうございました…。」
 とりあえずお礼だけを述べてみたものの、男性は何の事だかよく分からなかったようで暫くその動きが止まっていた。しかしやがて大きく頷くと、人懐っこい笑顔を向けてきた。
 「ああ、あの時の子かあ。こんな所で会うとは偶然だね。」
 「なんだお前、水月のことを知っているのか?」
 レイナルド先生が男性に尋ねると、彼はうんうんと首を縦に振った。後ろに縛ったグレーのポニーテールがゆらゆらと揺れる。
 「前にダンバでね、助けた事があったんだよ。…で、どうしたの今日は?」
 彼からの質問に私はファーガスさんの仕事を思い出し、抱えてきた鎧をレイナルド先生に差し出した。ファーガスさんから頼まれた、と一言付け加えると、男性は呆れ顔になった。しかしそれは私に向けられたものではなく、レイナルド先生に向けられていた。
 「先生さあ、まだ懲りてないの?絶対ヤバイって。またどこかへこんでるぜ、きっと。」
 「仕方がないだろう、私はここを離れるわけにはいかないからな。他に修理できる人がこの辺にはいないんだ…。」
 会話の内容から察するに、どうやら以前ファーガスさんに鎧の修理を頼んでどこかをへこまされている様子だ。レイナルド先生は鎧を仔細にチェックし始めた。目を皿のようにして隅々まで探りを入れている。すると横から見た皿のようだった目が、今度は上から見た皿のように大きく見開かれた。
 「あああ!今度はこっちの肩当てが!」
 「言わんこっちゃない。ダンバのネリスの方がよっぽどいい仕事するぜ。アルバイト代出してお使い募った方がよっぽど安上がりなんじゃねーの?」
 「う…うむ……考えておこう…。」
 がっくりと肩を落としたレイナルド先生だったが、やがて思い出したようにこちらに向き直った。
 「すまなかったな水月。確かに受け取ったとファーガスさんに伝えてくれ…。」
 尚も肩を落としたままのレイナルド先生と男性に別れを告げ、私は学校を後にした。

 私が鍛冶屋に戻ると、ファーガスさんは人待ち顔で私の帰りを待っていた。
 「お、戻ってきたね。それじゃあ約束通り、ショートソードの修理をしてあげようか。」
 私は最初に来たときに感じたよりも何十倍にも膨れ上がった不安を抱えながら、ショートソードをファーガスさんに手渡した。彼は刀身から柄を器用に取り外すと、それを炉の中に入れる。私はその様子をじっと見ていた。やがて赤く焼けた刀身が炉から取り出され、金床に置かれる。そこにハンマーが真っ直ぐ振り下ろされる。
 コォン。
 ファーガスさんが鉄に新しい命を吹き込んでいく。宿った命は躍動し、甲高い金属音を響かせ、火花を飛び散らせる。
 何度も形を確認してはハンマーを打ち下ろす。そんな作業をひたすら続けるファーガスさんの額から、汗が滝のように流れ落ちる。
 やがてようやく納得がいったかのような満足げな表情になると、彼はいまだ赤く光る刀身を大きな桶に張った水の中に沈めた。一瞬、じゅっという音と共に僅かばかりの水蒸気が立ち上った。

 それから暫くした後、私は新品同様になったショートソードをファーガスさんの手から受け取った。
 「今回は会心の出来だったな。また困った事があったらいつでも来てくれ。」
 今回「は」というのが妙に引っかかる物言いだったが、私は彼にお礼を言うと鍛冶屋を後にした。アイリが嬉しそうにショートソードに入ったり出たりしている。
 もう少し、このショートソードには頑張ってもらおう。おそらくこのティルコネイルを出る頃には、私も少しは戦うことができるかもしれないから。それまでの間は。
  1. 2009/06/23(火) 22:08:00|
  2. イメンマハの水面に月は映える
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イメンマハの水面に月は映える 11曲目

 戦闘訓練の話は当初は書くことを想定していなかったんですけど、どうもこれを書かないと水月は独り立ちできなさそうな気がしてきました。ただまあ訓練の話を延々続ける気もさらさらないので、適当に端折ってしまおうと考えていますが^^;。
 まあこの辺で色々と伏線を張っておけば、後々ネタになるかなあという思惑もあったりしますw。
 張っておいた伏線、忘れないようにしておかないとな…w。



 翌日から私は早速学校に出向き、ラサ先生から魔法の講義を受ける事になった。魔法の源となるマナとその供給源、魔法の基本となる3つの元素、そして、覚えておいて損はないからとおまけでマジックマスタリの事も教えてもらった。ある程度の知識を頭の中に詰め込んだあとは、いよいよ簡単な攻撃魔法をという事でアイスボルトを教えてもらう事になった。教室の中で氷の矢を飛ばすわけにはいかないので、私とラサ先生は校庭に出てきた。
 「氷の矢を作って飛ばすには、具体的に次の手順を踏むの。まず、マナの力を使って空気の温度を局所的に下げる。すると空気に含まれる水蒸気が結露して更に凍りつくから、できた氷の粒の形を整える。矢尻のように鋭くする事ができれば、攻撃力も上がるわね。」
 そう言ってラサ先生は両の掌を合わせるようなポーズを取った。するとその掌の間に、小さな氷の矢が現れた。
 「出来上がった氷の矢は、マナの力を使って自分の周りに浮かべておくといいわね。そして最後に、飛ばしたい方向とは反対の側から、マナの反発力を使って弾き飛ばす。…分かっているだろうけど、人に向かって飛ばしちゃダメよ?」
 次の瞬間、氷の矢はまさに弾かれたようにラサ先生の掌から発射され、少し離れた地面に突き刺さった。周囲の土が火薬を破裂させたかのように弾け飛ぶ。これだけ見てもかなりの殺傷力があることが分かる。
 「実際の戦闘では直接攻撃の手段にすることもできるけど、どちらかというと補助的に使われることの方が多いわね。アイスボルトを撃ち込むと殆どの相手は一瞬怯むから、その隙に次のスキルを用意したりとかね。勿論、修練を重ねれば直接攻撃に使っても十分使える威力が出せるようになるけど。…よし、それじゃあ実際にやってみようか。」
 私は先生に言われるまま、見よう見まねで両の掌を合わせ、神経を集中させた。掌の内側が冷たくなってくる。やがてその狭い空間にもやが発生し、それが凝結していく。それを見て一瞬気が緩むと、出来上がった水玉は私の掌から落下して落ち、そのまま地面に吸い込まれてしまった。
 私が先生の方を見ると、彼女はちょっと肩をすくめて苦笑いしてみせた。
 「まあ最初だからね、こんなもんよ。でもね、最初の一発で水玉まで作れる人ってあんまりいないのよ。大抵は何もできずに終わっちゃうんだから。だから自信を持って。さ、練習練習。」
 校庭の一角から勇ましい掛け声が聞こえてくる。その声がする方向をちらりと見ると、陽太がレイナルド先生の指導の下、木刀を両手で構えて素振りをしている。その表情は強くなりたい一心からだろうか、とても真剣だ。
 私は前に向き直った。掌を合わせ、更に目を閉じて再び神経を集中させる。先程まで受けていたラサ先生の授業の内容を反芻してみる。魔法の力の源、マナ。多かれ少なかれマナは誰にでも宿っているという。その力を感じ取り、イメージし、形にする。両の掌の空気に含まれる水をかき集め、凍らせる。更に大きく、更に冷たく。
 「すごいすごい、できたよ氷の矢が!」
 ラサ先生の感嘆の声が突然耳に飛び込んできて、私は目を開いた。両の掌の間に、先程ラサ先生が作ったものの数倍の大きさはあろうかという氷の矢が浮かんでいた。
 「よし、それじゃあ今度はそれを飛ばしてみよっか。私が言ったこと、覚えてるわね?」
 私は片方の手を氷の矢を支えるように下に回し、もう片方の手を氷の矢の背後にあてがった。再び自身に宿るマナの力を感じ取り、その力を掌と氷の屋の間で弾けさせた。途端に氷の矢は急速に私の掌から飛び出していったが、ラサ先生の氷の矢ほどの勢いはなく、どすんと音を立てて地面に転がった。
 「ん、ちょっと氷の矢が大きかったみたいね。大きいとそれだけ重くなっちゃうから、飛ばすのにもそれなりの力が必要になるからね。あとは氷の矢の大きさをうまく調整できれば完璧よ。すごいじゃない水月、たったこれだけのトレーニングでアイスボルトが扱えるようになる生徒なんて滅多にいないわよ!」
 「あ…ありがとうございます…。」
 私は先生に褒められたのが素直に嬉しかった。しかし、この世のものとも思えない極上の喜びのように感じて、逆に戸惑ってしまった。褒められたというだけなのに、なぜこんなに大袈裟なほどの喜びを感じるのだろうか。
 その時、私の脳裏に何かのイメージが浮かび上がってきた。しかしそのイメージを捉えようとすればするほどそれは霞のように薄れていってしまう。まるで、つい先程まで見ていた夢を思い出そうとするとそれが消えていってしまうように。そういえば先日もこんな事があったな、と雨のイメンマハを思い出した。
 「でも、できたからといって安心しちゃダメよ。常に修練を怠らないようにね。そうする事によって意識しなくても自然に魔法が使えるようになるし、威力や精度だって上がっていく。実戦で使うつもりであれば尚更だからね。…じゃあ今日の講義はここまでにしよっか。お疲れ様!」
 私がアイスボルトをすぐに使えるようになったのがよほど嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべてラサ先生は教室の中へと入っていった。私はそれから暫く氷の矢を作る練習を続けた。先生が最初に見せてくれたのと同じくらいの大きさの矢ができるようになったら、それを飛ばしてみる。確かに小さい方が飛行速度は出やすいようだ。しかし小さすぎると逆に威力がなくなってしまう。この辺りのさじ加減がちょっと難しいな、と私は思った。

 パララが南に大分近付いてきたころ、陽太とレイナルド先生が校舎の方へ戻ってきた。陽太は大汗をかいてタオルで顔を拭っている。
 「やあ水月、見ていたよ。ラサ先生にムチャクチャ褒められてたね。僕ももっと頑張らないとなあ。」
 顔を拭き終わった彼はそう言うと、木刀を一振りしてみせた。腕の筋がそれに合わせて動くのが見える。レイナルド先生は会話を交わす私達を見て微笑むと、そのまま校舎へと入っていった。
 「そういえばさ。」
 彼は打撃練習用のダミー人形のすぐ脇の芝生に座り込むと、私に問いかけてきた。相当汗をかいたのか、またタオルで顔を拭いている。
 「水月はどうして魔法を習おうと思ったの?アルビダンジョンで見ていたら、近接戦闘も普通にこなしていたみたいだけど。」
 その時また頭の中に何かがフラッシュバックしてきた。相変わらずそのイメージを掴む事はできなかったが、その一瞬、何かを思い出しかけたような気がした。
 「私は…。…自分が戦うよりも、他の人が戦っているのを援護する方が向いてるんじゃないかって…。そんな気がしたから。魔法だったらそれができるんじゃないかなって…。」
 「…そっか。」
 途端に彼のお腹がものすごい音を立てた。パララは真南に到達している。私達は顔を見合わせてひとしきり笑った。
  1. 2009/06/22(月) 22:24:06|
  2. イメンマハの水面に月は映える
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イメンマハの水面に月は映える 9曲目

 今回の話は、現在のチュートリアルクエでもかなり始めの方のクエの話です。ここで降って来た順番にクエストをこなそうとすると、ディフェンスがなくてどえらい事になります^^;。そうなるとマビ初心者は絶対ここで詰まると思うので、できれば直して欲しいんですけどねえ…。



 私は瞠目していた。目の前には虫とは思えないような巨大な生物が徘徊している。しかしその形状はどこからどう見てもクモだった。明らかにクモだった。それがなぜか下手なイヌよりも大きく見える。
 「ご主人様、構えて!来ますよ!」
 私はその声を聞いて、咄嗟に両腕で体をガードする姿勢をとった。激しい衝撃が両腕にかかるが、思ったほどダメージにはなっていない。多少痺れた程度だ。
 「すぐにアタックを!」
 腕を下ろすと、目の前にいるクモが攻撃を弾かれてバランスを失っている。私はショートソードでその大きな虫に斬り付けた。
 「ディフェンスを!」
 アイリの指示通り、私はアタックとディフェンスを交互に繰り返していた。無我夢中とはこういうことを言うのだろう。気が付くと、いつの間にかクモは倒れて動かなくなっていた。
 「やりましたねご主人様、できたじゃないですか!」
 アイリの嬉しそうな声を聞いて私も嬉しくなった。しかしその時、激しいうめき声が聞こえて私は再び緊張感を取り戻した。視線を巡らせると、クモに弾き飛ばされ片膝を突いた陽太の姿があった。壁際に追いやられ、ディフェンスの構えを取る間合いも失ってしまっているようだ。
 「陽太!」
 私はそのクモの動きが鈍くなったのを見て取ると、そのまま走り寄ってショートソードで斬り付けた。しかしクモはあろう事か私の攻撃を素早い動きで受け止め、バランスを崩してしまった私に対して攻撃を仕掛けてきた。私は堪らず弾き飛ばされ、床に転がった。
 「ディフェンスですよ、ご主人様。」
 アイリがショートソードの中から声だけで呼びかけてくる。
 「クモが何かスキルを使ったようならよくその動きを見てください。ゆっくりとした動きをしていたのならばディフェンスを使っています。ディフェンスを打ち破るにはスマッシュが有効ですよ。」
 私を弾き飛ばしたクモは、ゆっくりとした動きでこちらに向かってきている。アイリが言った通り、ディフェンスを使っているのだろう。私は神経を集中してクモの動きをよく見た。頭部のすぐ後ろが気のせいか光っているように見えた。
 私は走りこんでショートソードをその光っている箇所に思い切り突き刺した。深々と刺さったショートソードごとクモの体を持ち上げ、片足で蹴り飛ばすと同時に剣を引き抜く。クモはそのまま床に落ちて動かなくなった。
 「陽太!」
 私は片膝をついたままの状態の陽太に駆け寄った。彼は肩で息をしていたが、思ったほどダメージは大きくはなさそうだった。私は以前アルバイトの報酬としてもらった赤いポーションを荷物袋から取り出し、彼に差し出した。
 「サンキュー。」
 彼はそれを一気に飲み干すと、そのまま仰向けに寝転がった。生命力が回復しても、疲労までは回復しないらしい。
 「水月、ありがとね。まさか君に助けられるとは思わなかったよ。意外と強いんだねえ。」
 「…そうなのかな…。」
 私は自分が強いなどとは思っていなかった。先日のイメンマハでは、クモを相手になす術もなく攻撃されてばかりいた。今日はクモを撃退する事ができたが、それはアイリが的確な指示を出してくれたお陰だった。そうでなければ、とても一人で戦える自身などなかった。
 「その指示通り動けただけでも僕から見れば大したもんだよ。僕はまだまだだね。これからもっと練習しなくちゃ。…そろそろ行こうか。」
 私は立ち上がって彼に手を差し伸べた。いつかイメンマハで私を助けてくれた、あの戦士のように。陽太は一瞬私の顔を見て、それから私の手を掴んで立ち上がった。その手が妙に暖かく感じた。その暖かさが手を、腕を通って体全体に染み入ってくるような、そんな感覚を覚えた。私は人を助ける事ができたという嬉しさと、人と一緒に行動できているという嬉しさで心が満たされていくように感じた。

 少し進んでは休憩し、また少し進んでは休憩し、という事を繰り返してダンジョンの最奥部と思える扉の前までやってきた。今までの扉とは違う、大きな錠前で鍵がかけられた扉。先程見つけた赤い大きな鍵でこの錠前が開くに違いない。
 陽太が錠前を外した。そして扉に手をかける。
 「開けるよ。いい?」
 私は無言で頷くと、陽太は扉を一気に開け放った。中を覗き込むと、トレボーさんが言ってたと思われる村人の姿があった。そしてそのすぐ脇に。
 見たこともないような動物がいた。
  1. 2009/06/12(金) 22:17:56|
  2. イメンマハの水面に月は映える
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イメンマハの水面に月は映える 8曲目

 SNSの書き物でも感じたことなのですが、登場人物が一人だけというのはかなりキツイですね(アイリはマスコット的存在と位置付けているので、あまり話の展開に影響させる事ができないんです)。でも前回から登場した彼のお陰で大分ラクになりそうな雰囲気です。どこまでの付き合いになるかどうかは分かりませんが、まあ暫くは彼と一緒に行動する事になるんでしょうね。



 翌日、私は早速陽太と一緒に行動を開始した。どうやら陽太が、フクロウが持ってきた便箋――フクロウ便でなにやら頼みごとをされたようなので、私もそれについていくことにした。村を暫く北へと歩いていくと、黒い鎧に身を包んだ男性が気を緩めることなく辺りを警戒している。彼の名はトレボーさんというらしい。
 「おッ、早速来たな!」
 黒いヘルムの奥から時折鋭い眼光が見える。しかしなぜかその体からにじみ出る雰囲気は、限りない緊張感と同時に何かが抜けているような印象を私に植え付けた。
 「フクロウ便は読んだと思うが、先ほど村人が一人アルビダンジョンの方に歩いていくのを見かけてな。助けに行きたいのは山々なのだが、俺はここを警戒しなければならないのでここを離れる事ができない。そこでだ!」
 トレボーさんはすうっと右手を振り上げるとそれを一気に振り下ろし、陽太の顔面を指で指し示した。びしいっ!という擬音が聞こえてきそうな勢いだ。
 「お前に村人の救助を依頼したい!まあアルビダンジョンだからな、モンスターの類は一切出てこない。その代わり、少しばかり凶暴になった動物は出てくるからな、十分注意するようにッ!……それにしても…。」
 トレボーさんは陽太にアルビダンジョンに入るための通行証というものを手渡しつつ、私の方をちらりと見た。
 「お前ももう相手を見つけたのか。まったく…最近の若い連中はすぐに色恋沙汰に走るな…。だが俺はそれを否定はしない!アベックで行動というのも悪くはないだろう!」
 「あ…あべっく…?」
 トレボーさんの口から遠い昔に流行ったと思われる単語がぽろりと出てきた。私と陽太は一瞬顔を見合わせ、それから二人でトレボーさんの様子を暫く眺めていた。
 「フッ…男はいざというときに女を守らなければならないからな…。それが男の使命!男の生き様ッ!ああ…ディリスさん…俺は、俺は…!」
 陽太が私の服をくいっと引っ張り、指でアルビダンジョンの方を指し示してきた。私は頷くと、彼と無言でその場を離れた。アルビダンジョンへと向かう山道を登っていると、背後からなにやら叫ぶ声が響いてきた。
 「おいッ、お前達!二人きりだからといって間違いなんか起こすんじゃないぞッ!」
 何を間違えるのか一瞬よく分からなかったが、おそらく二人きりの時に武器を振り回すと相手に当たるから気をつけろと言いたいのだろう。しかし、陽太は何を勘違いしていたのか、その顔を赤らめていた。

 ぽっかりと開いた岩肌の穴を潜り抜けると、そこは部屋然とした空間だった。ここは通称ロビーと呼ばれている場所らしい。中央に少し高くなっている部分があり、その脇には翼を生やし剣を突き立てた大きな女性の石像があった。このエリンの世界を守護する女神の姿らしい。部屋の奥には扉のようなものはなさそうだ。
 「行き止まりなんだけど…ここで何をすればいいんだ…?」
 陽太がそう呟くと、彼が手にしているショートソードに一瞬光が宿り、そこから小さな女の子が現れた。クリーム色の髪、少し尖った耳、手にした赤い本、そして背中に生えた剣の形の羽を持つ翼…アイリだ。
 「その祭壇の上に乗って通行証を足元に落としてみてください。ダンジョンの中に入れますよ。」
 彼女はそう説明しながら私がいることに気が付くと、更に説明を付け加えた。
 「あ、ご主人様パーティを組んでるんですね。それならそちらの方も一緒に祭壇に乗って下さい。一緒にダンジョン内に転送されますよ。」
 私がそれを聞いて祭壇に乗ろうとすると、私の腰にぶら下げていたショートソードからもう一人のアイリが飛び出してきた。腰に手を当てて機嫌があまりよろしくない様子だ。
 「もう!せっかく私がご主人様に説明しようと思ってたのに…。勝手に私の仕事を取らないで下さい!」
 私のアイリが抗議の声を上げると、陽太のアイリが反論してくる。
 「なんでですか?私はご主人様にダンジョンの入り方を説明しただけですよ。悪い事はしていないと思いますけど。」
 「でも、私のご主人様には私から説明するべきです。あなたはあなたの主人にだけ仕えていればいいのでは?」
 まったく容姿が同じ精霊二人がそれぞれ自分が仕える相手をご主人様と言って争うものだから、かなり混乱する。私は段々と話についていけなくなり、仕舞いにはどちらが自分に付き添ってくれていたアイリだか分からなくなってしまった。
 「はいはい分かった分かった。言い争いは後にしてとりあえずさ、ダンジョン入ろうよ。」
 陽太が大袈裟に手を打ち鳴らして言い争いを中断させると、二人のアイリはお互いにぷいっとそっぽを向いてそれぞれのショートソードの中へと消えた。それを見て陽太は私に苦笑いしてみせると、祭壇の上に乗った。私もそれに続いて祭壇に乗ると、彼はトレボーさんから受け取った通行証を足元に落とした。
 すると、一瞬体が浮くような違和感を感じた。しかしそれはすぐに治まった。特段何か変わった様子はないように思えたが、振り返ってみると先程ロビーに入ってきた階段が塞がれてしまっている。しかし、女神像の奥を覗き込んでみると、そこには先程まで何もなかった筈の壁に下へと降りていく階段が口を開けていた。
 私と陽太は共にショートソードを構えると、下に延びる階段を下りていった。
  1. 2009/06/11(木) 21:40:38|
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イメンマハの水面に月は映える 7曲目

 そろそろ本格的にネタに詰まってきましたよw。まさかこんなに早くネタ切れになるとは。まあ主人公がアレですしね。レギュラーな登場人物が主人公(とその--下僕--お供)だけですしね。いずれこうなると思ってはいましたが…。
 そんなわけで、水月にはちょっと修行の旅にでも出てもらいます。それから、若干路線変更も企んでいます。とは言っても、当初のプロットを多少変更するだけなのですが…。



 「ねえアイリ、私ティルコネイルに行きたいから…道案内、してくれないかな?」
 私の唐突な提案に、小さな女の子は少々面食らったような顔つきで私を見つめ返してきた。少し前まではティルコネイルに帰ろう帰ろうと言っていた彼女らしからぬ反応だ。しかし数秒間固まった彼女はやがて嬉しそうに頷くと、逆に私を急かすように答えてきた。
 「ティルコネイルですね、ご主人様!道案内なら任せて下さいっ!」

 本当はイメンマハからだとオスナサイルを回っていった方が近道なのだが、またダイアウルフに襲われないとも限らないのでセンマイを通ろうということになった。長い道のりとなることを思うと、出かける前から気が重くなる。
 そもそもなんで私がティルコネイルに行こうなどと思い立ったのか。自分でもよく分からなかった。ただ、先日のあの子猫が自分から飼い主の元に歩き出していった姿を見て、私の中で何かが変わろうとしているのは確かだった。私は、その何かに賭けてみたくなった。自分を少しずつでもいいから変えてみたくなった。
 そんな感じで自分を奮い立たせてはみたものの、出だしから気が重くなっている自分になんだか呆れてしまう。すると、アイリが何かを思いついたように手をぽんと叩いた。小さな音が私の耳をくすぐる。
 「そうだ、ご主人様!ムーンゲート使いましょうよ!」
 「むーん…げーと?」
 そういえば以前見たことがある。その時は昼間で動作していなかったが、夜になると不思議な力で動き出して別の場所に瞬時に転送してくれるという施設だ。
 「あと数時間でイウェカが昇ります。ムーンゲートはイウェカの力で動きますから、イウェカが昇ると作動するんです。」
 アイリは私の手を赤ん坊のような小さい手で握ると、私を引っ張って町の東の方へと連れ出した。湖を回り込んで少し歩いたところに、橋で繋がれた小島があった。その中央に、石造りの建造物があった。大きい2本の柱のような岩が設置され、特殊な文字が刻まれている。その2本の柱の間には鎖が緩やかに渡され、鎖の中央部にはあまり見た事がない質感を持つ楕円形の岩が繋がれ、垂れ下がっている。丁度正面の西の空にはパララが赤く染まり、その身を地平線の彼方へ沈めていこうとしていた。
 「あともう少しですね。」
 アイリが独り言のように呟く。私はその時が来るのを待とうとその場に腰を下ろした。やがてパララの姿が完全に見えなくなると、少し自分の体が軽くなったような気がした。私は立ち上がって背後を振り返った。東の空から赤い月、イウェカが現れ始めている。
 ヴ…ン…。
 微かな音が耳に入って視線を元に戻すと、ムーンゲートに変化が現れた。2本の柱の文字が青白く光り出している。そして、鎖の中央に繋がれた楕円形の岩も、その全体が青白く光り出している。その光が少しずつ強くなり眩いばかりにならんとしたその時、不意に楕円形の岩がふわりと浮いて天空に引っ張られるように持ち上がった。どこまでも上昇しようとするその岩を、柱に繋がれた鎖が懸命に引っ張っているように見える。岩からは光の柱が真っ直ぐ下に伸び、地面に当たった場所にイウェカの影を映し出した。
 「なんだか不思議…。」
 私が思わずそう呟くと、アイリがうんうんと頷く。
 「実はこれが設置されたのは最近なんだそうですよ。どんな仕組みなのかは私も知りませんけど、これを作った人はスゴイですよね。」
 そう言いながら彼女は持っていた赤い本を広げてぱらぱらとページをめくり始めた。そしてあるページをじっと見つめた後、ぱたんとそれを閉じた。
 「ご主人様、丁度今ムーンゲートがティルコネイルに繋がっているみたいですよ。行きましょう!」
 私はその声を聞くと、ムーンゲートに向かって歩き始めた。頭上に青白く輝きながら浮かんでいる岩に少々怯えながらムーンゲートの台座に立つと、瞬時に体が軽くなった。そして視界が真っ白になり、何も見えなくなった。

 視界が戻ってくると同時に、自分の体重も元通り感じるようになった。私はやはりムーンゲートに佇んでいたが、周囲の景色がさっきまでとは違っている事に気が付いた。周りを見渡すと、何頭かの羊と犬が地面に寝転んでいるのが見える。暫くそれを眺めていると、何かが唸る声が突然背後から聞こえてきた。驚いて振り返ってみると大きい犬のような生物がこちらに身構えている。オオカミだ。
 「動かないでご主人様!」
 アイリの鋭い声が私の耳に飛び込んでくる。私はその場で硬直し、動けなくなった。
 「オオカミはこちらが攻撃する姿勢を見せなければ襲ってはきません。彼らを刺激しないように、ゆっくり村に向かいましょう。」
 私は少し緊張気味にその場を離れると、少し離れた所にある川にかかる橋を目指して歩き始めた。その私を取り巻くように、何頭かのオオカミが警戒しながらついてくる。私は生きた心地がしなかった。しかしやがて橋まで到達しようかというところまで来ると、オオカミは警戒を解いて去っていった。安堵の大きなため息が漏れた。
 するとまた私の背後に何か気配を感じた。すかさず振り向くと、そこには私と同じ冒険者風の男の人が立っていた。
 「やあ、随分と緊張していたみたいだけどどうしたの?手と足が一緒に出ていたよ?」
 それを聴いて私は恥ずかしさで顔面に血液が集中してくるのが分かった。説明しようとしてもうまく言葉が出てこない。
 「君も初心者みたいだね。実は僕もそうなんだ。あのさ、もしよかったら暫く一緒に行動しない?」
 「…え、あの…。」
 私は一瞬迷った。私が他人と一緒に行動しても迷惑をかけるだけなのではないかという不安が、どうしても付きまとってくる。
 しかし、私は心に決めた筈だ。あの子猫のように自分から歩き出すと。自分を変えると。私は彼の目を真っ直ぐに見据えた。するとあまりにも真正面から直視したためか、逆に彼の方が目を逸らしてしまった。
 「あ、いや、別に迷惑だったらいいんだ…。無理にとは言わないから…。」
 「いえ、あの、お願いします。」
 私が怒ったと思ったのだろうか、慌てて弁明しようとする彼に承諾の返事をすると、彼はこちらを再び向いて暫く硬直していた。しかしすぐに人懐っこい笑みを浮かべると、一気にまくし立ててきた。
 「あ、ありがとう。これからよろしくね。あ、自己紹介が遅れたね。僕は陽太っていうんだ。ヨウタね。」
 「私は…水月です…。ミヅキ。」
 「水月か。よろしくね、水月。僕にはタメ語で話してもらって構わないから。よかった~、他に初心者っぽい人が誰もいないからなんだか心細くてさ。」
 私は陽気に話しかけてくる彼のペースに巻き込まれつつも、これから暫く行動を共にするであろう新しいパートナーの顔をしっかり覚えておこうと懸命になっていた。
  1. 2009/06/02(火) 22:29:31|
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イメンマハの水面に月は映える 6曲目

 なんだか最近これ書きながら思うのですが、ハートフル路線とか言いつつなにか方向が間違っているような気がしてなりませんw。もうちょっとこう、ほのぼの系にするつもりだったのですが、なんだかどよんとしているというか、空気が重苦しいというかw。
 主人公の性格を少し是正しないといけないかなあ…とか思っているんですが、そんな事は簡単にはできないですからねえ^^;。作中本人が言っているように、少しずつ変えていくしかないんですかね。



 雨はぱらぱらという音を立てて方々へと降り注いでいる。湖を見れば、無数の波紋がひっきりなしに円状に広がっていっては消えていく。目の前の石畳の隙間に出来上がった水溜りからは水が流れ出し、排水溝へと注がれていく。
 私は聖堂の入り口の屋根の下で雨宿りをしていた。聖堂のボランティアの為に鶏の卵取りをしていたのだが、作業中から雨はぽつりぽつりと降り始め、聖堂に戻る頃にはすっかり本降りになってしまった。ジェームス司祭は今は建物の中に入ってしまってここにはいない。
 アイリは私の横にちょこんと座って、私と同じように降り続けている雨を眺めている。元気がトレードマークのような彼女にとって、この天気は非常に鬱陶しいものに違いない。
 すると聖堂の横手から小さな何かが顔を出した。こちらの様子を伺いながら近付いてきたそれは子猫だった。
 「わあ、可愛いですね~。」
 アイリが目ざとく子猫を見つけると抱きつこうとしたが、寸でのところでその動きが止まった。雨の中を歩いてきたらしく、全身濡れている。
 私は荷物袋の中からタオルを取り出すと子猫の体を拭いてあげた。タオルを巻いたまま横たえると、子猫は首だけを回してこちらを見上げ、みん、と鳴いた。アイリはその姿にすっかり魅入られてしまい、子猫にべったりくっついてしまった。目からハートマークが飛び出してきそうだ。
 子猫はアイリがじゃれ付いているにも拘らず私の方に顔を向けてみんみんと鳴いている。恐る恐る手を差し出すと、子猫は私の指を舐め始めた。
 「ねえアイリ…。」
 「あ、な、なんですかご主人様?」
 アイリは我に返ったようにこちらを振り返った。その頬が思いっきり緩んでいるのを見ると、相当この子猫が気に入ったのだろう。
 「この子…お腹空いているのかなあ。」

 私とアイリと子猫はレストランへとやってきた。
 「なに、ミルクだと?仕方ない、フレイザー、ちょっと出してやってくれ。…悪いんだが今立て込んでいてな。相手をしているヒマがないんだ。」
 「いえ、あの、それで十分です…ありがとうございます…。」
 厨房中に響き渡るかというようなゴードンさんの大きな声に少し引け腰になりながら、私はその隣にいた若き料理人からミルクが入った皿を受け取った。レストランの中にいると邪魔になるのでそのまま外に出て、適当に雨宿りできるところを探してそこに皿と子猫を下ろす。子猫は皿に歩み寄ると一心にミルクを飲み始めた。私はその様子をじっと見ていた。ふと、自分自身の姿が子猫と重なったように思えた。
 今の私は、この子猫と同じなのかもしれない。他人と交わることなく一人でさ迷い歩いて、それでいながら他人に助けられてばかり。私が心を開く事ができるのはアイリくらいしかいない。私が手を差し伸べる事ができるのは小さな子猫くらいしかいない。私は、一体何の為にこの世界に来たのだろうかとぼんやりと考えた。
 その時、不意に何かが脳裏をかすめた。少し古い、私がエリンにやってくるよりも前の記憶。しかしそれは掴みどころがなく、イメージとなる前に霞となって消えてしまった。
 私はミルクを飲み終えてタオルに包まり寝てしまった子猫の顔を見ていた。この子猫がいつか自分から外に出て行く日が来るのなら…私も自分の殻から外に出る事ができるだろうか。願望は十分すぎるほどある。しかしそのための勇気がまだ沸いてこなかった。

 暫くしてから雨が上がった。雲も晴れてパララの光が差し込む。暖かい日差しを受けた子猫が目を覚ました。体を起こして立ち上がると、大きなあくびをして伸びをした。明るくなったイメンマハの町を不思議そうに見つめている。
 私が雨宿りしていた屋根の下から表に出ると、小さな一人と一匹も一緒に表に出てきた。私の足はなんとなく中央広場の方へと向く。暫くそのまま歩いていると、後ろの方から子供の声が聞こえてきた。
 「ああっ、いたー!ミミー!」
 振り返ると、まだ年端も行かない男の子が私達の方へと駆け寄ってくる。私の足元にいた子猫は振り向いたまま暫く身動きをしなかったが、男の子がすぐ近くまで寄ってくると彼に向かっててこてこと歩き始めた。男の子は子猫を抱き上げると、私に向かってその元気な声で話しかけてきた。
 「お姉ちゃんありがとう、ミミを連れてきてくれて。ミミね、迷子になってたの。」
 「そう…あなたの子猫だったの…。」
 「うん。」
 そのやり取りを聞いてアイリはとてもがっかりした様子だったが、男の子が満面の笑みで子猫に頬ずりし、子猫の方も目を細めて気持ちよさそうにしているのを見て少し切ない表情になった。
 「お姉ちゃんは、ミミを助けてくれたんだね。」
 「…え…。」
 私は一瞬どきりとして男の子と子猫の様子を見た。その笑顔には、離れ離れになっていた者同士が巡り会えた安心感が広がっている。私がこの笑顔を作ってあげる事ができたのだろうか。本当に、私が。
 さっき子猫は男の子に向かって自分から歩いていってた。この小さい体で、自ら人との触れ合いを求めて。それを思い出して、私も少し自分の殻の外に出てみたくなってきた。それは大変な事かもしれない。自分自身を変えなければいけないかもしれない。それでも、少しずつでもいいから変わっていってみたい。そんな勇気が少しだけ沸いてくるのを感じた。
  1. 2009/05/29(金) 23:40:42|
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イメンマハの水面に月は映える 5曲目

 今回は目標の文章量に抑えることができましたよ!最近SNSでの書き物でも文章が肥大化傾向にあるので、これは嬉しい!素晴らしい!自画自賛!
 ところで、今回本編の中に「ひしめく」という言葉が出てくるんですけど、これを漢字変換してみたら「犇く」という字なんですね。牛が沢山集まるとひしめき合うさまになる。漢字って結構面白いですね。



 今日もアルバイトをこなした私は、パララが沈みかける夕暮れの中いつもの場所でリュートの練習をしていた。それにしても今日は人通りが多い。いつもは数十分に一人通り過ぎればいい方なのだが、なぜか今日はやたらと人が通る。最初はただ人が多いなくらいにしか考えていなかったが、あまりにも人が通るのでそのうち段々と自分の拙い演奏に自信がなくなってきて、リュートを弾くのをやめてしまった。
 すると、今までどこにいたのか姿が見えなかったアイリが戻ってきた。
 「ご主人様、今夜はそこで演奏会があるんですって。人が沢山集まっているのはそういうわけだったんですね~。」
 アイリが指差す方を見ると、確かに大勢の人が公演場に集まってきている。普段閑散としている公演場しか見たことがなかったため、私はこのステージが本当に使われているのかどうか今まで疑問に思っていた。
 「今夜は演奏会見に行きませんか?ご主人様も興味あるでしょ?」
 アイリに誘われて、私は賑わう公演場へと歩き始めた。公演場の前までやってきて中を覗き込んでみると、中はものすごい熱気だった。ステージを取り囲むように設置されているベンチには沢山の観客が所狭しと座り、演奏会が始まるのを今か今かと待ちわびている。普段のこの町では絶対に見ることができない光景だ。こんなに沢山の人々がひしめき合っていると、なんだか入るのを躊躇ってしまう。
 「ごめん、アイリ…私、こんなに沢山の人がいる場所は…。」
 「やっぱり…そう言うと思いましたよ。気にしないで下さい。私は、ご主人様が行くところにいつもついていきますから。」
 「ごめんね…アイリ。せっかく誘ってくれたのに。」
 彼女は私の肩に腰を下ろすと、私を気遣うように頬を撫でてくれた。私は熱気を避けるようにその場を離れると、いつもいるのとは反対の、町の西のはずれに向かって歩き出した。

 町の西のゲートをくぐって暫く行くと、南側に橋がある。それを渡ると湖に浮かぶ小島へ着く。私は時たまここにやってきて、咲き乱れる花を見るのが好きだった。今はすっかり日も暮れ、いくつか設置されている街灯の明かりだけが辺りをぼんやりと照らしている。勿論人影はなく、とても静かでやや寂しい印象だ。遠くの方から時たま拍手のような音や歓声が聞こえてくる。
 私はリュートと譜面を取り出した。この譜面は先日ダンバートンまで落し物を届けに行った時に、お礼として貰ったものだ。いつかアイリをびっくりさせてやろうと思って彼女に隠れて練習していたので、そこそこ演奏できるようにはなっている。私のせいで演奏会が見られなかったせめてものお詫びに、彼女にこれを聴いて貰いたかった。
 私がリュートを爪弾き始めると、アイリは少し驚いた顔でこちらを振り返った。
 「ご主人様…その曲は…?」
 私は少しだけ微笑んでみせると、無言のままリュートを弾き続けた。アイリに対するお詫びの気持ち、そしていつも私のことを気遣ってくれる彼女に対する感謝の気持ち。演奏の腕はまだまだだけど、その代わりに精一杯の気持ちを込めて曲を弾き続けた。私達だけの演奏会が暫く続いた。
 やがて演奏が終わると、アイリはその小さな手で拍手を贈ってくれた。少し照れくさかったが、なんだか嬉しかった。
 その時、遠くの方から拍手でも歓声でもない地響きのような音が聞こえてきた。私は思わずアイリと顔を見合わせた。それが何回か続いた後、音は止んで聞こえてこなくなった。
 「なんだろ…。」
 私はぽつりと言ってみた。するとアイリがそれに答えてくる。
 「演奏会のステージで派手な演出でもしているんですよ、きっと。最近の演奏会は結構凝っているみたいですからねえ。それよりご主人様。」
 「なに?」
 「さっきの曲、もう1回弾いてもらえませんか?私なんだか気に入っちゃいました。」
 アイリのアンコールに応えて、私はもう一度リュートを爪弾き始めた。さっきと同じように、彼女への思いを込めて。アイリは私の肩に座って目をつぶり、リズムを刻んでいる。暗い景色は視覚を遮断し、聴覚やその他感覚を一層敏感にさせる。自分が奏でている音楽がいつもよりも強くエコーバックしてくる。私も演奏しながら目をつぶってみた。
 今、私と一緒にいるのは、エリンに来てすぐに出会った精霊の小さな女の子。これからも迷惑かけっぱなしだろうけど、ずっと一緒にいられたらいいな。そんな思いを彼女に伝えたい。伝わっていればいいな。

 曲が終わった。すると、少し離れた所からぽつぽつと拍手が聞こえてきた。驚いて目を開けると、いつの間にか私達の周りに何人かの人がいた。更に橋の方からも少しずつ人が集まってきている。
 「あ、あの…。」
 私が言い澱んでいると、一番近くにいた人がここに集まってきた訳を教えてくれた。どうやら演奏会の方で妨害行為が発生したらしい。爆弾を数発炸裂させ、散々暴れまわった挙句に逃走したそうだ。先程の地響きのような音はその時のものだったようだ。
 「で、ステージは使い物にならなくなっちゃって演奏会は中止。物足りない人がみんなこちらに移動してきたってワケ。でも驚いたよ。移動した先でいきなりこんな綺麗な曲を弾いている人がいるなんてね。」
 「綺麗だなんてそんな…私なんて…まだまだ…。」
 「せっかくだからもう何曲か弾いてくれないかなあ。多分皆もそう思ってるよ、ねえ?」
 その声に周囲を見渡すと、みな一様に首を縦に振っている。しかし私はどうしても大勢の人前で演奏をすることはまだまだ無理だと思った。
 「ごめんなさい、まだ練習中の身なので…あの、これしか弾ける曲がないんです。だから、その、また今度…ごめんなさい。」
 私は苦しい言い訳をしてそそくさとその場を離れた。続々と集まってきた人達は、ここで2次会を始めそうな雰囲気だった。でも私は、なぜかこれから始まる演奏会は居残って聴いてみたいと思った。端っこの方に移動して腰を下ろす。アイリはなんだか少し嬉しそうに私の顔を覗き込んできた。
 静かな小島で始まった静かな演奏会に、私はちょっとした心地よさを感じていた。
  1. 2009/05/25(月) 22:29:04|
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イメンマハの水面に月は映える 4曲目

 さあてどんどん行きますよー。前回コメディタッチの話を書くと宣言しましたが、出来上がってみればあんまりコメディじゃなくなってしまったような気が…。やっぱり主人公がコレだと話全体の雰囲気もアレですねえ^^;。主人公の一人称視点で書いていますからね、どうしても影響が…w。
 それから今回はちょっと仕掛けを作っておきました。分かる人には一発で分かると思いますがw。ちなみに前回も仕掛けてあります。分かる人には一発で分かると思いますがw。



 イメンマハには人が殆ど来ない。それ故に、この町を拠点としている人はだいたい顔が知れている。私もここに来て数日経ったら、もう町の人の殆どが私の顔を知っていた。町自体は広いのに、コミュニティはまるで小さい村のそれと同じだった。
 私は朝日が昇ると同時にヒーラーのアグネスさんのアルバイトを受けて、それをこなしている。今回頼まれた仕事は彼女の薬の配達だ。配達先も街中だし、楽な仕事ではある。
 私はこうやって毎日アルバイトをして生計を立てている。日がな一日リュートを弾いているわけではない。いくら楽器演奏が好きな私でも一日中弾いていたらさすがに飽きてくるし、指も痛くなってくる。アイリなんてあくびをするどころか、公演箱の中に入り込んで寝てしまうだろう。
 「ん?ご主人様、呼びましたか?」
 私の目の前に突然アイリの顔が逆さまになって現れる。私の頭の上からこちらを覗き込んでいるのだ。
 「ううん、なんでもないよ。えっと、今回の薬の配達先は…と。」
 「ネイルさんですね。」
 その名前を聞いて胸の鼓動が一瞬高まった。私が憧れている音楽家。彼が広場で一人マンドリンを奏でているのを聴いて、私はすぐにその音色の虜になってしまった。陽気な物言いに反して何か物悲しげな雰囲気を匂わせる曲を奏でている姿は、何かしらの思いを内に秘めているように思えた。
 そんな話を以前アイリにした事がある。するとアイリは珍しく悪戯っぽく笑って私をからかってきた。
 「ふ~ん、ご主人様って、そういう陰があるタイプがお好みなんですか?」
 「え?…ん、ちがうよ、そんなんじゃなくて…。私はただ、ネイルさんの音楽が素敵だなって…。」
 そんな話をしていたものだから、せっかく憧れの音楽家に会うことができたというのに、逆に意識してしまって目を合わせることすらできず、要件だけ済ませてその場を立ち去ってしまった。もっとも、私の性格では普通に会っても会話をする事すらままならないと思うが。
 少しだけしょんぼりとアグネスさんの所へ戻り、仕事の報告をした。彼女は私が少し元気をなくしていることを心配していた様子だったが、たいした理由ではないからとちょっと強がって見せてその場を離れた。

 次は展望台のガルビンさんの仕事を請けに来た。彼の仕事も大抵配達なので、こちらも楽な仕事だ。
 「おっ、水月さん!今日はなんですか?買い物ですか、仕事ですか?早く言ってください!」
 彼の早口のせいでいまいちよく聞き取れない。私に早く言うようにせがむよりも自分がゆっくり喋ってくれと言いたくなったが、勿論私はそんな事は言えない。
 「お、仕事ですか?そうだ、それじゃあこのぬいぐるみを…。」
 そう言ってガルビンさんは一瞬受け付け台の下に消えると、くまのぬいぐるみを取り出してきた。彼には似合わないほど可愛らしい。
 「これをレストランのシェーナに届けてくれませんか!?前に同じ仕事を別の人に頼んだんだけど、なぜか送り返されてきて…。」
 私はクマのぬいぐるみを彼の手から受け取ると、レストランに向かって歩き始めた。すると後ろから声が聞こえてくる。
 「サボったりするなよ!えらい目に遭うからな!」
 私はなんだか珍しく腹立たしい気分になった。

 レストランはまだお昼前だからなのか、客の姿はなかった。厨房ではゴードンさんとフレイザーさんが空いている時間を利用して仕込みをしている。
 「あら水月さん、いらっしゃいませ!」
 私の姿を見つけたシェーナさんが笑顔で出迎えてくれたが、私が抱えているクマのぬいぐるみを見ると、なぜかその笑顔を顔面に貼り付けたまま1歩、2歩と後ずさった。
 「そ、それ…どこで…?」
 私は戸惑いながらも彼女にクマのぬいぐるみを手渡すと、彼女は観念したようにそれを受け取ってうな垂れた。
 「あの、えっと…ガルビンさんが…。」
 「あ…やっぱりね、あ、は…はは…。はあ。」
 私は彼女の変貌っぷりに頭を捻りながらレストランを出た。

 展望台に戻ってきてガルビンさんに仕事の報告をすると、彼は今までの人懐っこい調子から一変して報酬を渋り始めた。その報酬額を提示してきたのはガルビンさんなのだから、こちらが文句を言われるいわれはない筈だ。私はまた腹立たしくなってきたが、やはり彼に文句は言えず、大人しく黙っていた。
 「配達なんて簡単な仕事なのに…こんなに報酬を要求するなんて…。」
 などとぶつぶつと言いながら金庫を開けている彼を見ていると、不意に横から女性の声が聞こえてきた。
 「ふ~ん、ガルビン君、いつからキミはそんなにエラくなったんですか?」
 その声が聞こえた瞬間、ガルビンさんが固まって動かなくなった。そして恐る恐る声がした方向に首を向けている。
 私もそちらの方を見てみると、そこには青を基調としたアグネスさんのと同じヒーラードレスを着たメガネの女性が立っていた。背中にはやはり青い鞘に収まった大きな剣を背負い、手には青い釣竿を持っている。よほど青が好きなのだろうか。
 ガルビンさんはといえば、暫く固まっていたもののようやく声を振り絞ってその女性に挨拶をした。まさしく絞り出したような声で。
 「あ…姐さん…。」
 「なんですかその姐さんって。まあ別にいいんですけど。で?相変わらずアルバイトの人に暴言吐いてるんですか?私の時に懲りたんじゃなかったんですか?」
 「な…なぜここに…?」
 「来たら悪いですか。ここに来たら買い物かアルバイトくらいしかすることないじゃないですか。釣り餌を買いに着たんですよ釣り餌を。」
 最初は二人の関係がよく分からなかったが、二人の会話の内容から、どうやら彼女が以前ガルビンさんがぬいぐるみの配達を頼んだという人のようだった。やはり私の時と同じように報酬を渋り、彼女にこっぴどく絞られたらしい。
 「彼女はまだここの事よく知らないみたいなんですから、いじめたりしないように!分かりましたか!?」
 「はい…ごめんなさい…。」
 すっかりしょげたガルビンさんから視線を外した女性は、私の方にくるりと向き直った。
 「大丈夫ですか?この人は普段からこんなんですから、あまり気にしない方がいいですよ。見たところまだエリンに来たばかりみたいですけど、これに懲りずに頑張って下さいね。」
 私にそう言うと、ガルビンさんがうやうやしく差し出した釣り餌を取って脇にある橋を渡って行ってしまった。私はその後姿を眺めて彼女が羨ましくなった。自分の意見をあそこまではっきりと言える人間になれたらどんなにいいことだろう。でも、自分には無理なのかもしれない。自分のこの性格を変えない限りは。
 「ご主人様?報酬、いらないんですか?」
 アイリの声でふと我に返った。ガルビンさんが涙目で私に報酬の金貨を差し出してきている。
 「あ…ありがとうございます…。」
 彼の手から報酬を受け取った後も、私は展望台の脇から伸びる細い橋の彼方を見つめていた。
  1. 2009/05/20(水) 21:50:21|
  2. イメンマハの水面に月は映える
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イメンマハの水面に月は映える 3曲目

 後半です。なんだか1話目といい戦闘シーン(といっても水月は殴られてるだけですが…w)が多いような気が。一応このシリーズは基本的にハートフル路線でいこうと思っているので、戦闘シーンは時々しか出ない考えでいた筈なんですけどねえ。
 で、今後なんですが…早くもネタに詰まり気味w。主人公がこんな性格なのでなかなかアクションが起こせないんですよ。相棒にアイリをあてがったというのにこの有様ですw。もうちょっと活用しなければ…。
 というわけで、次の回辺りではちょっとコメディっぽいものを書いてみたいな~と思っております。



 私はダイアウルフの群れに全力で走っていった。突然の来訪者に、狂える狼達は瞬間的に身構えつつこちらを振り向く。その隙を突いて私は一気にその場を走り抜けた。
 追っては来ないだろうか。不安が高まる。振り返ってはいけない事は分かる。しかし気になる。私は誘惑に負けて後ろを振り返った。そこには私達を追いかける者など誰もいないことを期待して。
 しかし私のその期待はあまりにも楽天的過ぎるものであることを知る結果となった。ダイアウルフ達がこちらに向かって走ってきている。ただ、若干警戒している様子はあるものの、本気で追いかけてきているわけではなさそうだった。
 「今はまだ単なる好奇心でついてきているだけのようですね。でもいつ攻撃に転じてこないとも限りません。急いで、ご主人様!」
 遠くにゲートのようにくり貫かれている岩が見えてきた。道はそのトンネルを通って続いている。トンネルの向こうは広い草原のようになっている。ダンバートンが近いのだろうか。私は力を振り絞ってラストスパートをかけようとした。その時、背後で唸り声が短く聞こえた。
 次の瞬間、背中に何かが激しく当たり、私は転びそうになった。しかしなんとか持ちこたえると再び走り出した。ダイアウルフが体当たりを仕掛けてきたようだ。痛む背中を庇いながらなおも走っていくと、数体のダイアウルフが私の目の前に飛び出してきた。丁度私の行く手を阻むように。それに構わず突破しようとすると、彼らは私の足に縋り付くように飛び掛ってきた。なんとか振り払ったものの、私はバランスを崩してその場に倒れこんでしまった。後から追いついてきたダイアウルフも混じり、私は完全に彼らに包囲されてしまった。
 背後からの唸り声が高くなった。そちらに視線を向けると、まさに今にも私に飛び掛らんとするダイアウルフと目が合った。その瞬間、目にも留まらぬスピードで彼は私に飛び掛ってきた。ディフェンスの構えを取る暇もなく、私は弾き飛ばされた。手に持った瓶が割れないようしっかり抱きかかえたまま。しかし直後、私はそれが結果的に包囲網を突破する事になったことに気が付いた。ダイアウルフの攻撃が強すぎたのだ。私は無我夢中で立ち上がるとそのまま再び駆け出した。この大切な瓶を届けなければ。私はただそれだけを考えていた。

 石のゲートはもう目の前だった。それを駆け抜けると周囲の様子が一変し、草原のような場所へと出る。道は緩やかに下降し、その向こうには城壁と沢山の露店が見える。ダンバートンに違いない。
 唸り声がいまだ背後から聞こえてくる。もう息も絶え絶えだった。足も思うように動かなくなってきている。左腕から赤いものが垂れているように見えたが、今はそんなものは気にならなかった。私の視界には露店を見て回っている人々が映りこんでいた。なにか掘り出し物でもあるだろうか。そんな余計な事を考えた拍子に私の足はもつれ、私は地面に投げ出されるように倒れてしまった。ダイアウルフが背後から迫ってくる。その荒い息がもう私の所までやってくる。
 思わず目をつぶって瓶を抱きかかえた時、空気を裂くような轟音が聞こえると同時にダイアウルフの荒い息が瞬時に遠のいた。恐る恐る目を開けると、ダイアウルフと私との間に一人の男性が割って入り、彼らを睨みつけていた。彼の掌には光の球が浮遊している。それを投げつけるように前に突き出すと、それは先程と同じ空気を裂くような轟音と共に青白いいかづちとなってダイアウルフを撃った。
 「ライトニングボルトですよ…あれ。」
 アイリが私にそっと耳打ちしてきたが、それがエリンでよく使われているボルト魔法の一つだと知ったのは、それから随分と後のことだった。
 男性はあっという間に全てのダイアウルフを退治すると、私に向かって手を差し伸べてきた。私は一瞬躊躇した後、その手を取ってなんとか立ち上がった。
 「大丈夫かい?露天を見て回っていたらいきなりダイアウルフに襲われてるもんだからさ、びっくりしちゃったよ。」
 彼の手が私に触れると、そこからすうっと痛みが引いていく。ヒーリングの魔法をかけてくれたようだ。私は助けられたお礼を言おうと相手の姿をもう一度よく見てみた。モノトーンを基調とした服装で、腰には雷のようなジグザグの形をした鉄の棒のようなものが吊るしてある。
 「あ…!」
 突然アイリが小さな声を上げた。彼女の小さな指先が自分自身を指差しているのを見た男性は、きょとんとした様子だ。
 「この人ですよ、ご主人様!さっき馬で通り過ぎていったのは!」
 「え、あの…俺がどうかしたの?」
 要領を得ていない男性に、私は抱え込んでいた青い液体の瓶を差し出した。
 「あ、あの…これ…。イメンマハで落としましたよね…。それで、私、あの、これを届けようと思って…。」
 私が差し出した瓶を見て、男性は何故か非常にばつが悪そうな表情を浮かべた。きっと喜んでくれるだろうと思っていた私は、その反応に戸惑った。
 「ああ…そっか…。ごめんね、わざわざ危険を冒して持ってきてくれて。じつはね、こいつ期限切れなんだよ。」
 「期限切れ…?」
 「うん。こいつはね、製造してから一定期間が経つと効力がなくなっちまうんだ。だから、その…せっかく届けてくれたんだけど…。」
 私はその言葉を聞いて全身の力が抜けた。そしてその場に座り込んでしまった。私がしたことは全て無駄だったのだ。力尽きるまで走り続けたのに。猛獣に命まで狙われたのに。泣きたい気分だった。
 「でもさ。」
 男性はしゃがんで私の顔を覗き込んできた。涙で滲む視界の中、彼の瞳だけがやたらと透き通るように澄んでいるのが見えた。
 「いまどき君みたいな人もいるんだねえ。俺が捨てた…まあちゃんとゴミ箱に捨てなかった俺も悪いんだけどさ、そんなのをわざわざ拾って届けてくれる人がいるなんてね。本当にありがとね。君は優しい心の持ち主なんだね、きっと。」
 私はただ黙っていた。私は、自分が優しい人間だなどと思ったことはなかったし、人からそんな事を言われたこともなかった。目の前で落し物があったから届けた、ただそれだけだった。だから、なんと返事すればいいのか分からなかった。そんな私の様子を見て彼は少し微笑むと、立ち上がって再び私に手を差し伸べてきた。私は今度は躊躇せずにその手を握り、立ち上がった。
 「お詫びといっちゃあなんだけどこれあげるよ。」
 そういって彼は私に羽のような形をしたアイテムと、巻物を一つくれた。
 「その羽みたいなのは蜜蝋ってんだ。自分が今まで行った所ならどこでもすぐに移動できるよ。それからそっちは譜面だよ。俺のお姫…んにゃ、大事な人がくれたんだけど俺音楽やんないし。君は音楽をやっているみたいだからさ、あげるよ。それじゃあ気をつけてね。」
 男性はそう言うと、片手を上げて露店の中へと消えていった。私は彼から受け取ったアイテムを抱きかかえ、その姿をずっと見送っていた。
  1. 2009/05/16(土) 21:58:03|
  2. イメンマハの水面に月は映える
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イメンマハの水面に月は映える 2曲目

 というわけで第2話です。このシリーズを始めようと思ったとき、基本的に一話完結で続き物にはしないと決めたのですが、いきなりそれを破ってしまいました…w。書いたボリュームがあまりにも大きくなりすぎて、2回分の文章量に…^^;。
 別に文字数制限があるわけでもないので1つにまとめてしまってもいいんですけどね、あんまり長いと読む方も大変でしょうから。それに、分割した方が回数が稼げますし。



 私は今日もイメンマハの町の片隅でリュートを片手に演奏の練習をしていた。目の前の公演箱には武器精霊のアイリが座り込み、あくびをしながら大きく伸びをしている。
 私の名前は水月(みづき)。このエリンにやってきて最初に訪れた村ティルコネイルで、聖堂のエンデリオン司祭からリュートを頂いてからというもの、ろくに戦士としての訓練もしないまま演奏ばかりして過ごしている。当初は出かける度に早くティルコネイルに戻れとか、戦士として一人前に云々と私に説教していたアイリも、やがて私が全然言う事を聞かないので諦めたのか、何も言わずについて来てくれている。
 「アイリどうしたの、ヒマ?」
 私は演奏の手を止めて彼女にそう聞いた。箱の上の小さな女の子は慌てたように取り繕うと、えへへっと笑った。
 「ごめんなさいご主人様、なんだか暖かくてつい。」
 彼女の言うとおりだ。最近少しずつ暖かくなってきているので、気を緩めるとつい眠たくなってしまう。私のつたない演奏をただ延々聴いているだけではあくびもしたくなるだろう。
 「少し歩こうか。気分転換に。」
 「そうですねえ。」
 私は公演箱をしまうと中央広場に向かって歩き出した。アイリはその私の肩に舞い降りて座っている。中央広場には噴水がある。その噴水からは透き通る水がパララの光を反射してきらきらと輝きながら流れ落ち、涼しげな音を奏でている。それを聴いているととても心が穏やかになるのを感じた。
 こういう音もあるのだな、と改めて感じた。もしこの音を、この感覚を、楽器演奏で表現できたらすごいだろうなとは思うものの、自分にまだそれだけの音楽的才能があるとも思えない。なによりもまずは楽器を意のままに弾けるようにならなければ、表現したいものも表現できない。
 そんなことを考えながら歩いていくと、後ろの方から馬の蹄の音が聞こえてきた。やがてその音は私のすぐ横を通り過ぎていった。栗毛の馬は騎手である冒険者を乗せたまま走り去っていく。
 その時だった。
 冒険者の懐から何かが転がって落ちた。駆け寄って見てみると、それは青い液体が入った瓶だった。
 「マナエリクサーですよ。」
 アイリが私に説明する。マナの基本的な供給源がイウェカの光しかないこのエリンの世界では、マナを回復させるポーション類は貴重な品なのだという。中でもこのマナエリクサーは一定時間無尽蔵にマナを供給する薬で、魔法士達に大変重宝されているのだそうだ。
 「そういえばさっきの人…。」
 アイリが頬に指をついて何かを思い出すような仕草を見せる。
 「腰に魔法のワンドのようなものを装備していましたよ。きっとこれ、あの人の大事なアイテムなんですよ。」
 「…そんなに大事なものなら届けてあげないと…。」
 私が瓶を拾い上げると、アイリはちょっと困ったような顔つきになった。
 「でもさっきの人、馬に乗っていましたよ。今から追いかけても間に合わないんじゃ…。」
 「…でも。」
 アイリの言う事はよく分かる。しかし大事なものを落としたのを黙って見過ごすわけにもいかなかった。私が物言いたげにアイリの瞳を見つめていると、彼女は諦めたように溜め息を一つついて中央通りの方を指差した。
 「分かりましたよ。行きましょうご主人様。さっきの人はあっちのほうに走っていきましたから、おそらくダンバートンに向かったのでしょうね。」
 私はリュートを背中に背負うと、青い液体の瓶を握り締めて中央通りを北へと走っていった。

 狭い崖道だった。多少の幅はあるものの柵の類は一切設置されておらず、万が一足を踏み外したら谷底に真っ逆さまという事態になることは容易に想像できる。慎重に歩きたい気分ではあるが今はそうも言っていられない。私の足は自然と小走りに動く。
 「そういえばご主人様はここ初めてですよね?」
 「うん。」
 私はティルコネイルを出た後、ダンバートンを通ってバンホールに辿り着いた。その後、センマイ経由でイメンマハに入ったので、この崖道は一度も通った事がなかった。アイリによれば、この崖道はオスナサイルというのだそうだ。本来の街道は私が辿った道なのだが、ダンバートンとの近道の為に山間部を貫いて作られたらしい。
 ダンバートンへの道を急ぐ私の目の前で道が急激に狭くなる。その丁度狭くなっている辺りになにか動物が群れを成しているのが見えた。褐色の犬か狼のように見える。
 「あれは…。」
 アイリが私の髪を引っ張って警告してくる。そして言葉にも出して注意を促してくる。
 「ダイアウルフですよ。ご主人様はまだ見た事がないと思いますけど、ティルコネイルの近くにもいます。普通の狼とは違って傍を通るだけで攻撃を仕掛けてきますから、十分気をつけて!」
 気をつけろと言われたものの、この状況でどこをどう気をつければいいのか見当もつかない。ここでもたもたしていても余計な時間を過ごすだけだと判断した私は、覚悟を決めてダイアウルフの群れの中へと飛び込んでいった。
  1. 2009/05/15(金) 22:25:20|
  2. イメンマハの水面に月は映える
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イメンマハの水面に月は映える 1曲目

 はい!というわけで、ブログ版書き物の記念すべき第1話です!初回なので色々と説明だのなんだのと取り入れていたら、思った以上にボリューム感が…。ホントはこれの3分の2程度の文章量に抑える筈だったのですが…^^;。
 とりあえずスタートとしてはまずまずかなあと自分では思っております。これから色々と企んでいる事がありますので、おいおいそれはこの中で表現していきたいと思っています。



 パララが南の空にまで上がってきた。宇宙を構成すると言われているエルグの力を源にこの世界を照らし続けている光を浴びると、心が穏やかになってくる。どこからともなくそよ風が吹いてくると、それに乗って草木の優しい匂いが運ばれてくる。
 私はリュートを弾いていた。演奏するのは、私が尊敬する音楽家から買った楽器演奏練習の本に載っていた練習曲。私はこの練習曲を自分の家ではなく街中で弾いていた。もっとも、ミレシアンである私には自分の家などないが。
 「あら水月(みづき)さん、今日も練習ですか?精が出ますね。」
 洋服屋を営んでいるエレノアさんが私に声をかけて通り過ぎていった。私は彼女に軽く会釈して返す。
 ここはイメンマハの中央広場から東にやや行った辺りのゲート付近。ここを通る人影は殆どない。私は人のいない路地の上でただひたすらリュートを弾き続けている。聴く人もいない、ましてや足を停める人もいないこの路地で。
 「ねえご主人様。」
 突然私の脇腹から声が聞こえてきた。腰に差してあるショートソードからにゅっと現れた小さな女の子が、背中に生えた小さな剣のような形の羽で構成された翼をはためかせ、私の目の前まで舞い上がってきた。その手には赤い本が納まっている。
 この女の子は武器精霊のアイリ。エリンに来たばかりの冒険者のサポートをするためという名目で私と一緒にいる。このエリンでの案内をするとともに、ある程度の戦闘指南もしてくれる。私が独り立ちできる程の実力を身につければ、彼女はその役目を終えて主従契約は自動的に解除されるようになっているそうなのだが、私が戦闘訓練もせずにリュートばかり弾いて歩いているものだから、彼女はずっと私に引きずられる格好になっている。とはいえ、彼女はそれを楽しんでいる節も見うけられた。
 「なに、アイリ?」
 「以前から聞こうと思っていたんですけど…なんでこんな端っこの方で演奏しているんですか?もっと真ん中の方に行けばいいのに。」
 彼女の言う事はもっともだ。このような場所では聴く人はおろか、通りがかる人さえろくにいない。公演箱を置いてはいるがそれが本来の役割を果たした事はただの一度もなく、もっぱらアイリのベンチと化している。
 そもそもこの町自体、人通りが多いわけではない。中央通りに顔を出してみたところで人とすれ違う事もあまりない。町の所々に点在しているお店などで時々買い物客を見かける程度だ。
 「それに音楽を聴いてもらうんだったら、この町よりもダンバートンの方がいいんじゃないですか?あっちだったらもっと沢山人がいると思いますよ?」
 私でもそれは分かる。しかし私にはあがり症のきらいがあって、大勢の人達の前で演奏する事はもちろん、人と話す事すら苦手だという致命的な欠点がある。そんな私がどうしてダンバートンのような大勢の人が集まるような所で演奏できようか。
 「アイリだってもう理解しているでしょ、私の性格。あんなに人が集まるようなところじゃとても…。それに私の演奏なんてまだまだだよ。人が大勢いる所で演奏したらきっとみんな迷惑に思うよ。」
 「そうですか~。」
 私の返答を聞いた彼女はただそれだけを言って、私の肩に舞い降りて座った。私とアイリは暫く何も言わないまま、リュートの音色に身を任せていた。

 それから暫く経った頃、先程挨拶を交わしたエレノアさんが私のところへとやってきた。その目には何か得体の知れない期待感が潜んでいるような気がして、私は一瞬言いようのない不安に駆られた。
 「あの、水月さん。水月さんって冒険者ですよね?」
 「え…ええ、一応。」
 「よかった!私の店のすぐ裏にいつの間にか白クモがいたんですよ。退治して貰えませんか?」
 「あ…えっと…。」
 「あ、ごめんなさい、報酬ですよね。あまり多くは出せませんけどいつものアルバイト代くらいは出せますから。それじゃ、よろしくお願いしますね。」
 「あ、あの…!」
 止める間もなく、エレノアさんは自分の店へと戻っていってしまった。後に残された私が暫く無言で立ち尽くしていると、肩に座っていたアイリが唐突に大きい声を出した。
 「さ、それじゃ参りましょうか、ご主人様!」
 「え、参るって…どこに?」
 「何言ってるんですか、白クモ退治しに行くんじゃないんですか?」
 私がもたもたしているのが気に入らないのか、少し怒ったような調子でアイリは私の肩から飛び立ち、手を引っ張ろうとする。
 「だって…エリンに来てから演奏ばかりしていたし…白クモ退治だなんて…。」
 「この間ティルコネイルで練習したじゃないですか。大丈夫ですよ、ご主人様はちゃんと才能がありますから。私が保証します。はいこれ持って!」
 目の前で私の手を引っ張っていたアイリは眩い光に包まれると、腰のショートソードに吸い込まれるように消えた。するとそのショートソードに淡い光が帯び、ひとりでに浮き上がって私の右手に納まった。私はようやく決心するとリュートを背中に背負い、町の東にある緑地へと向かった。

 緑地から回りこんで町に近付くと、確かに白クモが1匹いた。それを確認すると覚悟を決めて斬りかかった。
 「ご主人様。この間も言いましたけど、クモは攻撃パターンが単純ですからディフェンスで相手の体勢を崩してその隙にアタック、これを繰り返していれば勝てます。落ち着いて!」
 しかし戦闘に慣れていない私はディフェンスの構えを取る事自体に時間がかかってしまい、どうしてもクモに斬りつけた後に攻撃を受けてしまう。構えを取るのが間に合っていないのだということが頭の中で分かっていても、体がついていかない。私は何回もクモに弾き飛ばされ、次第に町の南側へと押されていった。大分体力も消耗してきているのが分かる。これ以上はもたない。そう思った時だった。
 すぐ脇で雄鶏が突然鳴いた。私はびっくりして思わず視線をそちらへと向けてしまう。
 「よそ見しないで!!」
 アイリの悲鳴が耳に届くのと激しい衝撃が体を貫いたのがほぼ同時だった。私は大きく跳ね飛ばされ、そのまま地面に転がった。体が思うように動かない。目だけを回して視線を巡らせると、白クモが私の傍へゆっくり寄ってくるのが見える。そしてその前肢を大きく広げて今にも飛び掛らんとした瞬間。
 大きな風の唸りが聞こえたかと思ったら唐突に視界から白クモの姿が消えた。何かが潰れるような嫌な音が聞こえ、そして甲冑のようなものを着こなし両手に大きな剣を持った戦士が私の視界に入ってきた。戦士は暫くクモが飛ばされた方向をじっと睨みつけていたが、やがて緊張を解くとゆっくりと私の方へと振り向いた。
 「大丈夫ですか?今ヒーリングの魔法をかけるからじっとしてて。」
 暫くそのまま待っていると、体の中から活力が湧き始め、それと同時に打撃によって与えられていた痛みが嘘のように消えていった。
 「あ、あの…ありがとうございます。な、何かお礼をしたいのですが…えっと…その…。」
 助けてもらったお礼をしなければ。しかしまだエリンに来たばかりの私には、このような立派な戦士に差し上げるだけの報酬などなかった。私が口ごもっておどおどしている間彼は私の姿をじっと見ていたが、やがて口を開くと静かに私に言った。
 「そうですね、それではそのリュートで一曲弾いてもらえませんか?それで十分ですよ。」
 「え…。」
 私が戸惑っていると、ショートソードからアイリが再び姿を見せた。そして私にウィンクしてみせる。
 「ほらご主人様、はやくはやく!」
 「あ…うん。」
 私は背中に背負っていたリュートを両手に持つと、練習曲の中でも一番のお気に入りを爪弾き始めた。目の前にいる戦士に対する感謝の気持ちを込めて。
 拙い曲を一生懸命弾き終わると戦士は私に拍手を送ってくれた。私はこの戦士の優しさに胸が一杯になって何度もお礼を言った。戦士は、それじゃあもうそろそろ行くから、と私に告げて立ち去ろうとしたが、ふと足を停めて私の背後を指差した。
 「ああ、月が出てきた。…綺麗だなあ。」
 その言葉に私も後ろを振り返った。イウェカよりも一足早く遠い地平線の彼方から現れたラデカが、その白い姿を湖に映し込んでいた。私は水面に映った月の姿を見て、何か言いようもない清々しい気分になるのを感じていた。
  1. 2009/05/13(水) 22:09:12|
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